仕立て屋のサーカスの新演目、
レクチャーパフォーマンスを取り入れた
東京公演のレポート&紹介映像を公開
仕立て屋のサーカスは昨年、「 農業史研究者・京都大学准教授 / 藤原辰史 」氏による、言葉、対話にフォーカスした
“ レクチャーパフォーマンス “ を取り入れた公演を行いました。
この新たな公演形式について知っていただくべく、観劇レポートと紹介映像(2022年12月東京公演)を製作しました。
是非ご覧くださいませ。
レポート:高松夕佳
( 夕書房・書籍『 したてやのサーカス 』出版 )
映像: Gakuto Tano ( 映像作家 )
『 仕立て屋のサーカス 公演 レポート / 高松夕佳 ( 夕書房 ) 』
2022年5月、コロナ禍を経て再始動した仕立て屋のサーカスは、
レクチャーパフォーマンスを取り込んだ新しい演目を発表した。
その第1弾に参加したのは、農業史研究者で京都大学准教授の藤原辰史氏。
これには驚いたファンも多かったのではないだろうか。
確かに仕立て屋のサーカスはこれまで、さまざまな異分野のゲスト団員を迎え入れてきたが、
彼らは美術家、ダンサー、俳優、映像作家、音楽家、劇作家などいずれもアーティストだった。
それに対して、今回舞台に上がったのは、アートには縁もゆかりもない、歴史学の大学教授。
ミスマッチに思える異色の組み合わせはしかし、仕立て屋のサーカスの本流に逆らってはいない。
むしろその流れを促進する新たな挑戦である。
仕立て屋のサーカスには、「全部があってほしい」と、演出の曽我大穂は言う。
音があり、布があり、光があり、様々な層の観客がいて、食も本もある。
そこに「学び」があるのはごく自然なことだ。
学問が軽視され、自由闊達な学びが大学から失われてきている昨今、学びの起源に立ち戻り、
その感触を味わいたいという思いも曽我にはある。
アカデミーの語源は、古代ギリシアのプラトンが広場で行っていたアカデメイアにあると言われる。
レクチャーを別立てにせず、混沌としたサーカスパフォーマンスの一部に組み込んでいるのは、
思想や原理を説く者の周りに人々が自然と集まるようになった、大学の萌芽を体感するのに適している。
曲芸にしろ猛獣使いにしろ、みんなができないことをやってあっと驚かせるのがサーカスなのだとしたら、
みんなの知らないことを知っている学者は立派なサーカス団員になりうるし、
知に向かう姿勢や講義スタイル(声の響き、動き回る仕草)は、その人ならではのダンス・音楽・演劇として鑑賞すべきものになると曽我は考えている。
舞台に上がるのは、音楽家でもファッションデザイナーでも大工でも大学教授でもいい。
その1人ひとりが社会で役割を果たしてきた「職人」であり、その磨き抜かれた作法や動作を、
まるで演劇やダンスを観るように鑑賞するのが仕立て屋のサーカス公演なのである。
2022年12月の東京・新宿ルミネゼロ公演の後半部、サーカスの衣装に身を包んだ藤原が、
布で覆われた舞台中央に入ってきた。
周囲を取り囲む観客を見廻したかと思うと、講義が始まる。その作法はごく自然で、
舞台は途端に講義室に変わった。
藤原が投げかける質問にいきいきと答える、年齢も職業も立場も違う観客たち。
自分たちの生きる世界のことを知り、自らのかかわりについて考え、意見を交わす。
学ぶ喜びで会場全体が満たされたとき、再び布が揺れ、光が動き、音が降り注ぎ始めた。
心がはるか遠くへ飛んでいくような開放感と、脳裏に刻まれた具体的な知識の感触
――仕立て屋のサーカスの新機軸が、ここに誕生した。
Report:高松夕佳 ( 夕書房 )
Movie:田野岳人
演出:曽我大穂
出演:
藤原辰史 ( 農業史研究者・京都大学准教授 )
大塚和哉 ( 大工 )
曽我大穂 ( 音楽家 )
スズキタカユキ ( 服飾家 )
渡辺敬之 ( 照明 )